誘導電動機の構造
誘導電動機は、主に固定子と回転子に分けることができます。それぞれの構造を見ていきましょう。
固定子(ステータ)
固定子の主な役割は、回転磁界を発生させることです。
固定子は主に次の部品からなっています。
- 固定子枠
- 固定子鉄心
- 固定子巻線
調べれば実物の画像が直ぐに出てくるかと思いますが、参考までにイラストを貼っておきます。<画像1>
固定子枠
イラストを見ると固定子枠にはひだひだがついているのが分かりますか?これは表面積を大きくして放熱しやすくするためのものです。
固定子鉄心
固定子鉄心にはケイ素鋼板を積層した「積層鉄心」が用いられています。積層鉄心というのは、薄い電磁鋼板を1枚1枚絶縁したものを、何枚も重ねたものとイメージするとわかりやすいと思います。なぜ絶縁したものを積層するのかというと、「渦電流損」を軽減できるからです。渦電流は”ジュール損”を発生し、損失を大きくします。<画像2>参照。
先ほど申し上げた通り<画像2>右には、薄い電磁鋼板を1枚1枚絶縁したものを、何枚も重ねたものを使用しています。これによって「積層方向と垂直に磁束が貫いたとき」、渦電流損を低減できます。
固定子巻線
固定子巻線は三相交流電流が流れ、回転磁界を発生させます。回転磁界の発生原理を次に説明します。
回転磁界が生じる仕組み
固定子巻線は<画像3>のように、u相・v相・w相が120°の間隔をもって配置されています。
結論を先に述べると「u相・v相・w相に120°ずつ位相のずれた交流電流を流すと、回転磁界が生ずる」のですが、まだピンと来ないかと思います。
ここで、仮にu相・v相・w相に各相同相の電流が流れていると仮定して、各相をそれぞれ見ていきましょう。
三相同相の場合
u相
今回は前提として、電流が正の期間には<画像4>中右図のように電流が流れるとします。つまり、電流は負の期間は図の向きとは逆向きに電流が流れるとします。u相電流波形中の「$θ=\frac{π}{2}$」のとき、電流の大きさは最大ですので磁界の大きさも最大になります。
<v相>
v相・w相にもu相と同相の電流が流れていると仮定したので、電流波形はu相のものと同じになります。しかし、巻線配置に関してはそれぞれ120°ずつずれているので、<画像5>のように、磁界の方向のみが異なることになります。$θ=\frac{π}{2}$の時電流の大きさが最大で、磁界も最大。この時方向は、左下になります。
w相
w相に関しても「$θ=\frac{π}{2}$」の時電流の大きさが最大で、磁界も最大。このとき方向は左上になります。
結果
ここまでは各相の「$θ=\frac{π}{2}$」の時の磁界の発生の様子を見てきましたが、以上の3つは同タイミングで起こっています。なので磁界のベクトル合成を行い、全体として磁界がどうなっているのかを見てみましょう。
ベクトル合成の結果が<画像8>になります。
ベクトル合成を行った結果3つのベクトルが打ち消しあってしまいました。今は例をとって 「$θ=\frac{π}{2}$」 の時の磁界を検討しましたが、どの位相のタイミングを取っても、大きさが同じで120°ずつずれているので、磁界は打ち消しあいます。
次に各相に流れる交流電流の位相を120°ずつずらしてみます。u相を基準として、v相を120°遅れ、w相を120°進みとします。
位相の進み•遅れの覚え方はこちら↓の記事で解説しています。興味のある方は是非ご覧ください。
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位相を120°ずつずらした場合
u相
u相の波形・磁界の方向は先ほど用いた<画像4>と同じものを使用し、これを基準とします。
v相
v相にはu相よりも位相が120°遅れた電流が流れます。その結果電流は負の向きであり、大きさは最大値よりも小さくなりました。つまり、磁界の方向は右斜め上、大きさは最大値よりも小さくなります。
w相
w相にはu相よりも位相が120°進んだ電流が流れます。その結果電流は負の向きであり、大きさは最大値よりも小さくなりました。つまり、磁界の方向は右斜め下、大きさは最大値よりも小さくなります。
結果
では、電流の位相を120ずつずらした状態で「$θ=\frac{π}{2}$」の瞬間をベクトル合成するとどうなるでしょうか。
合成した結果が<画像11>になります。
3つのベクトルを合成した結果、一本の右方向に生じる磁界になりました。今回は「$θ=\frac{π}{2}$」の瞬間のみを検討しましたが、波形上の各点で同様のことを行うと、合成磁界は<画像12>のように推移することになります。
時間が経過するにつれて、合成磁界が時計回りに回転していることが分かります。つまり結論は、
回転子(ロータ)
回転子の主な役割は、回転磁界をうけ、電磁力により回転する。つまり電気エネルギーを磁界エネルギーを介して機械エネルギーに変換する部分になります。
回転子は大きく分けると次の3種類、
- かご型
- 巻線型
- 特殊かご型
があります。
かご型回転子の特徴
「かご型」はもっとも一般的な誘導電動機の回転子で、導体バー(アルミニウム)の両端を端絡環(円形のもの)で短絡したものであり、その名の通りかごのような見た目をしています。
メリット
- 構造が簡単で、ブラシやスリップリングがないため、保守が容易である。
- 構造が簡単であるため、安価である。
デメリット
- 巻線型誘導電動機に比べ始動トルクが小さい。
- 始動時、”突入電流”が大きくなるため、これを軽減するための工夫が必要である。
巻線型回転子の特徴
巻線型は、回転子に三相巻線を用います。<画像14>を見ていただくと分かる通り三相巻線に、スリップリングとブラシを経由し可変抵抗(二次抵抗)に接続されています。この可変抵抗の値を変化させることで、始動特性の改善や速度制御を行うことができます。始動後に二次抵抗は不要となりますので短絡します。
メリット
- 二次抵抗の値を変化させることで、始動特性の改善・速度制御ができる。
デメリット
- 二次抵抗による損失が発生する。
特殊かご型回転子の特徴
特殊かご型は、回転子のスロット(導体が入る箇所)を特殊な形状とし工夫することで、始動トルクの改善を図ったものになります。特殊かご型はさらに、「深溝型」と「二重かご型」に分類されます。
以下の<画像14><画像15 >は”始動時”の電流密度を表したものになります。
いきなり「電流密度を表したものになります」と言われても困ります!と思われる方もおられるかもしれませんが、これを理解するには「二次抵抗値とトルクの関係」「表皮効果」についての理解が必要になります。したがってこの記事では、「特殊かご型には、”深溝形”と”二重かご型”の二つがあるんだなぁ」くらいで構いません。
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