【EVモーター】同期電動機の種類と回転原理を詳しく学ぼう【界磁とは?永久磁石とは?リラクタンスとは?】

電気自動車(EV)と同期電動機

現在世界的な大きな潮流として「脱炭素」が大きくなっています。その取り組みとして電気自動車の普及をはじめ、様々なものの「電化」が進んでいます。電動機は「電気エネルギーを機械エネルギー」に変換する機械。電気自動車にも当然搭載されています。そんな、今後より重要な役割を担う電動機の仕組みや構造を学んでいきましょう。

普段は「電気主任技術者試験」向けの解説記事や過去問解説を主に更新しています。なのでこのブログを普段から利用されている方は、ある程度電気を学ばれていらっしゃる方が多いのですが、今回は、次のような方に向けた記事となっております。

・車に興味があり、電動機について知りたいが電気理論についての学習経験がない。
・同期電動機と誘導電動機の違いが分からない。
・回転磁界の正体がなのか分からない。
今回このような記事を書こうと思ったきっかけは、下のリンクの本を読んだときにこう思ったからです。
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「これ、電気の勉強してないと分からなくないか…..?」
誤解がないように言いますが、この雑誌は非常にオススメできます。豊富なカラー写真やグラフ、詳細な説明があり良本であることに間違いはないのですが、純粋に車に興味があるだけの方にはハードルが高いのではないかと感じたのです。私が普段解説している「電気主任技術者」試験には4科目あり、その中の一つに「機械科目」があり電動機について学ぶことがあります。さらに、個人的に電動機についての本を幾つか読んできたので、知識を生かして初学者の方に向けて分かりやすく書こう。というのがキッカケになります。

そもそも電動機にはどんな種類があるのか?

電動機は、車のみならず、エアコン・扇風機・電動歯ブラシ・冷蔵庫、いたるところに用いられています。これらの電動機にはどんな違いがあるのだろうか。違いを学んでいきましょう。

大まかな分類

電動機は大まかに分類すると画像のようになります。

画像1
画像2

ここではまだ「?」の状態で構いません。たくさん種類があるんだなぁくらいに思っていただければ結構です。

直流電動機(DCモーター)

直流電動機の仕組み

直流電動機はその名前の通り「直流電源をつなぐことによって回転する電動機」となります。直流は英語で「Direct Current」ですので、頭文字をとって「DC」とも表記されます。では実物を見てみましょう。

画像3

<画像3>のような電動機ならば、見たことがあるという方も多いかと思います。直流電動機は、直流電源である「乾電池」で動作させることが出来るので、一番身近な電動機であると言っても良いかもしれません。

直流電動機の構造を見てみると次のようになります。

画像4
画像5

「固定子」である永久磁石から発せられる磁束と回転子に流れる電流との作用(フレミングの左手の法則)によって、回転子に力が発生し回転します。ブラシと整流子は回転方向を一方向にするための部品であり、これを無くしたものが「ブラシレスDCモーター」となります。直流電動機の詳しい回転原理・構造に関しては↓の記事をご覧ください。

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直流電動機の主な用途

直流電動機は「乾電池」等で駆動することが出来るというメリットを持つ電動機なので、

  • 玩具
  • 携帯の振動モーター

等に用いられます。

誘導電動機

誘導電動機の仕組み

誘導電動機と同期電動機は「交流電動機」に分類されます。交流電動機は、先ほど説明した直流電動機とは異なり、交流電源により駆動される電動機です。誘導電動機をさらに分類すると「単相誘導電動機」と「三相誘導電動機」になりますが、一般的に誘導電動機というと、三相誘導電動機、さらに言うと「三相かご形誘導電動機」のことを指すことが多いです。したがってこの記事では、三相かご形誘導電動機について解説していきます。三相かご形誘導電動機は下のイラストのような外観をしています。

画像6
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三相誘導電動機は「三相交流電源」を接続することによって駆動する電動機ですが、この三相交流電動機の駆動の理解に欠かせないのが「回転磁界」の存在です。この回転磁界の理解につまづく方が非常に多いように思います。後ほどしっかり解説していきますので、まずは構造を見ていきましょう。
画像7
かご形誘導電動機の回転子は<画像8>のようなアルミで作られたかご状の導体が、鉄心に組付けられたものになります。
画像8

誘導電動機の用途

単相誘導電動機

  • 電気洗濯機
  • 扇風機
  • 掃除機

等々家庭用コンセント(単相交流)に接続して使用する「家庭用機器」に使用される電動機になります。

三相誘導電動機

  • ポンプ
  • 送風機
  • 圧縮機
  • EV駆動用電動機

等々の三相交流電源を接続する電動機になります。単相交流電源と比較して、大きなパワーを発生させることが出来ます。

同期電動機

誘導電動機の回転子は、いわば「ただの導体」なわけですが、同期電動機の回転子は「磁石」になっています。後ほど詳しく解説しますが、この磁石の種類が「電磁石」なのか「永久磁石」なのかによって「巻線界磁式同期電動機」か「永久磁石式同期電動機」に分かれます。また磁石も用いない「リラクタンスモーター」というモーターも同期電動機の一種になります。

同期電動機は、後ほど解説する「回転磁界」と同じ回転速度で回転する、すなわち同期して回転するので「同期電動機」という名前がついています。

回転磁界って何だろう?

三相交流とは?

三相交流の説明をする前に、直流の定義と交流の定義を確認しましょう。

時間的に流れる方向が変わらない電流。また,方向と同時に大きさも変化しない電流
時間の経過とともに周期的に向きや大きさが変化する電流
画像9
次に、三相交流の定義を見てみましょう。
三つの電圧または電流の振幅が等しく,各電圧間の位相差がそれぞれ120度ずつである交流。
画像10

<画像10>を見ていただくと、3つの交流が120°ずつずれた波形となっています。例えば、青線の交流波形が「正に最大」のとき、オレンジ線と灰色線は「負に最大の半分くらい」となっています。このように、3つの交流をずらした波形にすることで次に説明する「回転磁界」を発生させることが出来ます。

回転磁界が生じる仕組み

ここから「回転磁界」を解説していきますが、少し長くなりますのでご了承ください。不要なら飛ばしていただいてもかまいません。

まず固定子を6つの導体で表現します。

画像11

「u-u’」「v-v’」「w-w’」はそれぞれ繋がっており、uに「手前から奥方向」に電流が流れると、u’には「奥から手前方向」に電流が流れるということになります。3つの交流の「行って帰り」を簡単に表現しています。この「手前から奥」と「奥から手前」は<画像12>のように表現されます。

画像12

次に交流波形の「正の期間」と「負の期間」の電流の方向を<画像13>のように定めます。

画像13

ここからは、三相交流波形を「u相」「v相」「w相」の3つに分けて、横軸である位相(”時間経過”とすり替えていただいても理解できます)が$\frac{π}{2}$の時の磁界を見ていきましょう。それぞれの磁界の方向を示していきます。

u相

$\frac{π}{2}$の時、u相電流は「正の方向に最大」となっています。この時、磁界の向きは「右ねじの法則」により右方向、磁界の大きさは電流の大きさに比例するので、磁界の大きさも最大となります。

画像14

v相

$\frac{π}{2}$の時、v相電流は「負の方向」となっており、電流の大きさは最大ではありません(厳密には計算しませんが大体最大値の半分くらい)。この時、磁界の向きは「右ねじの法則」により右上45°の方向、磁界の大きさは電流の大きさに比例するので、磁界の大きさもu相による磁界の大きさに比べて小さくなります。

画像15

w相

$\frac{π}{2}$の時、w相電流は「負の方向」となっており、電流の大きさは最大ではありません。この時、磁界の向きは「右ねじの法則」により右下45°の方向、磁界の大きさは電流の大きさに比例するので、磁界の大きさもu相による磁界の大きさに比べて小さくなります。

画像16

合成磁界

ここまでで、$\frac{π}{2}$の時の「u相」「v相」「w相」の磁界の大きさと方向を求めてきました。ではこの3つの磁界を合成します。

画像17

合成磁界の大きさは3つのベクトルの「ベクトル合成」で求めることが出来ます。では、それぞれの相で各タイミングでの磁界の方向と大きさをプロットし、三相交流波形上に合成磁界を載せてみましょう。すると次のようになります。

画像18

<画像18>の磁界の大きさと方向は3つとも同じ位相で取っていません。正負に最大・電流0と最大の中間点でそれぞれ取っています。では合成磁界をみてみましょう。

画像19

矢印の角度は厳密ではありませんが、合成磁界の推移を見て取れます。今回の場合は時計回りに回転していることが分かります。これが「回転磁界」たる所以となります。回転磁界の回転速度は電動機の極数と周波数で決まります。極数は電動機の構造上変わらないので、変えることが出来るのは周波数のみとなり、周波数が一定であれば、回転磁界の回転速度(以下同期速度という)は一定となります。

回転磁界の回転速度$N[min^{-1}]$(1分間で何回転するか)は、
$$N=\frac{120×f}{p}[min^{-1}]$$
で表されます。ただし、$f$は周波数$[Hz]$、$p$は極数となります。

この回転磁界は、二つの磁石で表現することもできます。

画像20

今回の場合、二つの磁石が周囲をぐるぐる回っているものと表現することも出来ます。逆に言うと、周囲に磁石が回っている状況を三相交流で再現できる。ともいえるかと思います。これが可能であるという点が、三相交流電動機が発達してきた理由でもあるのだと個人的には思います。

以上で回転磁界の解説を終わります。

”誘導”電動機と”同期”電動機は何が違うのか?

回転メカニズムの違い

誘導電動機の回転メカニズムは次のようになります。

  1. 固定子に三相交流電源を接続すると回転磁界が生じる。
  2. 回転磁界が「かご形回転子(導体)」を横切る。
  3. かご形回転子に電圧が誘導され、電流が流れる。
  4. 回転磁界と回転子に流れる電流との相互作用で回転トルクが発生する。

以上のように、誘導電動機は、回転子を貫く磁束が変化する(回転磁界が回転子を横切る)ことで電圧が誘導され電流が流れトルクを生じます。したがって、回転磁界の回転速度が回転子の回転速度より早くなければなりません。したがって回転子の回転速度は、回転磁界の回転速度(同期速度)よりも遅くなります。また、

$$\frac{同期速度ー回転子の回転速度}{同期速度}$$

を「すべり」と言います。

一方で、同期電動機の回転メカニズムは次のようになります。

  1. 固定子に三相交流電源を接続すると回転磁界が生じる。
  2. 回転磁界と回転子の磁石との間に吸引力が働き、回転トルクが生じる。

吸引力というのは、S・N同士が引き付けあう力のことを言います。この力を利用し回転するのが同期電動機なので、回転磁界の回転速度と回転子の回転速度は等しくなります。

誘導電動機と同期電動機の回転に関しては「すべり」の有無が大きな違いとなります。

発電機として使用するには…?

電動機を何かしらの力で回転させると発電機になる。というのをご存じの方も多いかと思います。例えば同期電動機の固定子にかかる電圧を0として回転子(磁石)を回転させると、固定子には電圧が誘導されます。これが同期発電機の原理です。しかし誘導電動機の場合、回転子がただのアルミ導体なので、固定子に電圧を印加しない状態で、いくら回転子を回転させたとしても電圧は誘導されません。ただ導体が回転しているだけの状態になります。

では、誘導電動機を発電機とするにはどうすればよいのでしょうか。それは次のグラフを見れば分かります。

画像21

<画像21>の「すべりートルク曲線」は、誘導機のすべり(横軸)とトルク(縦軸)の関係を示したグラフになります。すべり$s$が1の時が始動時、すべり$s$が0のときが、回転子の回転速度と回転磁界の回転速度と同じになったときになります。なので右の発電の領域は、回転子の回転速度が回転磁界の回転速度よりも早くなった領域ということになります。つまり、固定子による回転磁界が生じている中で、外部から回転子に力を与え、同期速度よりも早くすれば誘導発電機になります。

誘導発電機は、発電するために外部から電源を接続する必要がある。というのが特徴になります。

永久磁石式同期電動機とは何だろう?

永久磁石式同期電動機の仕組み

永久磁石式同期電動機の回転子には「永久磁石」が用いられます。後ほど解説する巻線界磁式同期電動機とは違い、界磁電流による損失がありません。そのため、界磁損失がない分高効率となります。

永久磁石の配置箇所が「回転子表面」か「回転子内部」かによって「表面磁石同期電動機」や「埋込磁石同期電動機」に分類できます。

画像22

永久磁石式同期電動機の特徴

  • 回転子に永久磁石を用いるので界磁損失が無い。
  • 埋込磁石同期電動機の場合、マグネットトルク(磁気吸引力によるトルク)とリラクタンストルク(後述)を利用することが出来る。
  • 表面磁石同期電動機の場合、永久磁石が回転子表面にあるため磁束密度を有効利用できる反面、高速回転では磁石が割れたり脱落するおそれがある。

巻線界磁式同期電動機とは何だろう?

巻線界磁式同期電動機の仕組み

巻線界磁式同期電動機は、回転子が「電磁石」になっているものを言います。回転子の界磁巻線に電流を流し、磁束を発生させます。

画像23

 

巻線界磁式同期電動機の特徴

  • 界磁電流を調節することで、界磁磁束の調整が可能となる。
  • 界磁電流による損失(界磁損失)が生じる。
  • 永久磁石を用いないので、レアアースレスとなり材料供給リスクが低下する。

どんな車種に使われているのだろう?

巻線界磁式同期電動機は日産「アリア」の駆動モータに採用されています。これは、巻線界磁式同期電動機の特徴でも挙げた「界磁の調整が可能である」点が大きく効いているようです。電動機は、回転子の回転速度が上昇すると、回転子が発する磁束が固定子巻線を切ることにより固定子に逆起電力を誘起します(前述した発電と同じ)。これは、固定子巻線に加えられている電圧を打ち消すものであると考えてもよいです。永久磁石式同期電動機の場合、回転子には永久磁石を用いているので磁束は一定。回転子が高速回転になればなるほど、逆起電力は大きくなっていきます。この逆起電力が大きく上昇しすぎるというのが、高速回転時の効率を妨げる原因となってしまいます。しかし、巻線界磁式であれば、回転子が発する磁束を加減することが出来ますので、高速回転領域においても、逆起電力の上昇を抑えることが出来ます。このように、車の使用環境に応じて、駆動モーターが選定されているということになります。

リラクタンスモーターって何だろう?

リラクタンスモーターの仕組み

リラクタンスモーターは、その名の通り「リラクタンストルク」を利用した電動機になります。先ほど解説した「永久磁石式同期電動機」の埋込磁石同期電動機は、マグネットトルク+リラクタンストルクでしたが、この電動機は「リラクタンストルク」のみで回転する電動機です。

リラクタンストルクとはなんだろう?

リラクタンストルクを簡単に説明すると、「磁束の通り道が最短経路となるように、鉄心に働くトルク」となります。画像で見てみると直感的に分かります。

画像24

磁束が最短経路を通るというのは、「磁気抵抗(磁束の通りにくさ)が最小となるように鉄心が移動する」と言い換えることが出来ます。電動機の場合、固定子による回転磁界が回転子を貫くわけですが、この時も磁気抵抗が最小となる方向に回転子が回転します。

このリラクタンストルクを発生させるためには、回転子鉄心に「磁気抵抗が小」の部分と「磁気抵抗が大」の部分を設ける必要があります。このためリラクタンスモーターの回転子には<画像25>のような工夫がされています。

画像25

<画像25>を見ていただくと分かるように、鉄心中に空気層が設けてあります。このように空気層があることによって、磁気抵抗(磁束の通りにくさ)が変わり、リラクタンストルクが生じるのです。このリラクタンストルクは、先ほども少し記しましたが、「埋込磁石同期電動機」にも生じます。

画像26

以上がリラクタンスモーター簡単な回転原理と構造の説明になります。

リラクタンスモーターの特徴

  • 高速回転に適する
  • 永久磁石を用いないのでレアアースレスとなり、安価に作れる。
  • 振動騒音が大きい
  • 低速回転時に回転力の変動が大きい

終わりに

電動機は、日常生活から生産活動まで幅広く用いられ、我々の文明を支えているものであるといっても過言ではないと思います。今後も身近なものの電動化、EV推進等によって電動機の使用箇所はますます増えていくことでしょう。現在、世界年間消費電力量の電動機の占める割合は約半分であるということも言われています。電動機は多くの電力を消費しているのです。この記事を書いておいて言うことではないのかもしれませんが、電動機の動作原理や構造を知ったからといって、明日からの生活になにか変化があるわけではありません。しかし、多くの方がこの分野に関心を持ち投資や応援をするようになれば、電動機の効率向上、発展と共に、エネルギーの有効活用・利便性向上につながるのではないかと思っています。

では、ここまで読んで頂きありがとうございました。

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