【始動法】かご型誘導電動機の始動法<5種類>と始動に工夫が必要な理由を分かりやすく解説

かご型誘導電動機の始動法とは?誘導電動機には様々な始動法があるのか。

かご型誘導電動機の始動法は次の5つがあります。

  1. 全電圧始動法
  2. スターデルタ始動法(YーΔ始動法)
  3. リアクトル始動法
  4. 始動補償器始動法
  5. インバーター始動法

なぜ「かご型誘導電動機の始動」には工夫が必要なのか?

そもそも、「何故かご型誘導電動機には、さまざまな始動法があるの?」という疑問もあるでしょう。

始動時には、当然回転速度が0の状態からスタートします。回転速度が$N=0$ということは、式$$s=\frac{N_{s}-N}{N_{s}}$$より、滑りは$s=1$となります。誘導電動機の一相分等価回路(↓記事参照)より、一次負荷電流$I_{1}^{‘}$(一次換算値)は$$I_{1}^{‘}=\frac{V}{\sqrt{(r_{1}+\frac{r_{2}^{‘}}{s})^{2}+(x_{1}+x_{2}^{‘})^{2}}}$$となります。

【誘導電動機の等価回路について詳しく】
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分母が小さくなるほど電流は大きくなり、分母が小さくなるのはs=1(始動時)ということになります。この始動時に流れる大きな電流のことを「始動電流」といいます。

回転速度が上がるにつれてsが小さくなっていくので、分母が大きくなり電流は小さくなっていきます。

様々な始動法が存在するのは、この始動電流(突入電流)を抑えるためです。始動電流が大きいと、電圧降下が大きくなったり、巻線の過熱焼損が生じる恐れがあります。これはいけません。これを防止するために様々な始動法があるのです。

全電圧始動法

全電圧始動法というのは、その名の通り全電圧(定格電圧)を印加して始動するというものです。ここで、「あれ?全電圧印加しても大丈夫?」と思われる方もおられると思いますが、あまり良いものではありません。したがって全電圧始動法というのは、「小型の電動機」に限られて用いられます。

この時の始動電流は、定格電流の5~7倍といった値になります。電流による損失(ジュール損)は電流の二乗に比例しますので、ジュール損は定格時の25~49倍になるということですね。大容量機で全電圧始動を行った場合、大変な大電流・発熱が生ずる恐れがあることが、容易に想像できます。

全電圧始動法の回路概要は<画像1>のようになります。

画像1

スターデルタ始動法

スターデルタ始動法はよく用いられている方式になります。名前のスターデルタというのはその名の通り、スター結線・デルタ結線を上手に切り替えて、始動電流を抑制する。という方式になります。

まず初めに前提知識として、↓<画像2><画像3>で「スター結線・デルタ結線における線間電圧⇔相電圧、線電流⇔相電流の関係」を確認しておきましょう。線間電圧・線電流の添え字を$l$とし、相電圧・相電流の添え字を$p$としています。

画像2

画像3

ここで<画像2><画像3>中の、線電流同士(③式同士)を比較しましょう。$$\begin{align}\frac{I_{lY}}{I_{lΔ}}&=\frac{\frac{V_{l}}{\sqrt{3}Z}}{\frac{\sqrt{3}V_{l}}{Z}}\\&=\frac{1}{3}\end{align}$$

この結果より、始動時にスター結線を用いると始動電流がデルタ結線を用いる時よりも$\frac{1}{3}$になるということが分かりました。そうなると「電流が小さくなるならずっとスターでよくない?」と思われる方もみえるかもしれませんが、そうではありません。スター結線を用いた場合、始動トルクが$\frac{1}{3}$に減少してしまうのです。したがって、回転速度が上昇し、電流値が収まったタイミングでスター結線の役割はおしまいとなり、デルタ結線に切り替わります。

始動トルクが $\frac{1}{3}$ 減少する根拠は以下の式により示されます。$$\begin{align}T&=\frac{P_{o}}{ω}\\&=\frac{3p}{4πf}・\frac{R_{2}^{‘}}{s}・\frac{V^{2}}{(R_{1}+\frac{R_{2}^{‘}}{s})^{2}+(X_{1}+X_{2}^{‘})^{2}}\end{align}$$

つまり始動時(s=1)、$$T∝V^{2}$$であるので、スター結線で印加電圧が$\frac{1}{\sqrt{3}}$となれば、$T$は$\frac{1}{3}$に減少します。

この式の導出には、「L型・T型等価回路」の知識が必要になります。前回の記事をご覧ください。↓参照

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スターからデルタへの切り替わりには、シーケンス回路が組まれ、タイマーにより一定時間後に行われます。

また、この方式ではスターからデルタへの切り替え時に突入電流が流れてしまいます。しかし、全電圧始動時の突入電流の継続時間より短いので、この方式にはメリットがあると言えます。

↓<画像4>にスターデルタ始動法の回路概要を載せます。

画像4

リアクトル始動法

リアクトル始動法は、電動機と三相電源の間に直列にリアクトルを接続し、電動機に加わる電圧を低下させ、始動電流を低下させる方式になります。始動完了後、リアクトルを開閉器で短絡し、全電圧とします。

スターデルタ始動法の場合、スターからデルタへ切り替える際、突入電流が流れてしまいますが、リアクトル始動法の場合、リアクトル→短絡の際に突入電流は流れません。これがリアクトル始動法のメリットになります。

電動機に印加される電圧が$\frac{1}{α}$となった場合、始動電流は $\frac{1}{α}$ 、始動トルクは $\frac{1}{α^{2}}$ となります。

↓<画像5>にリアクトル始動法の回路概要を載せておきます。

画像5

始動補償器法

始動補償器法というのは、電源と電動機の間に三相単巻変圧器を設置したものになります。

始動時には三相単巻変圧器の変圧比を変化させることで、電動機に加わる電圧を低下させ突入電流を低下させます。電動機に流れる始動電流を $\frac{1}{α}$ にした場合、電源に流れる電流電動機の始動トルクは、全電圧時の $\frac{1}{α^{2}}$ となります。

少々分かりにくいと思いますので、ここで少し「単相変圧器」をイメージしてください。巻数比$α:1$の時、二次側電圧は$\frac{1}{α}$になります。全電圧時の電圧を1として単巻変圧器によって降圧したことで 電圧が$\frac{1}{α}$ になったので、電流も $\frac{1}{α}$ になります。そして、電源側(1次側)に流れる電流は、巻数比との関係より、二次側電流の $\frac{1}{α}$ になるので、全電圧時の $\frac{1}{α^{2}}$となるわけです。

又、この方式では、全電圧に切り替える際に大きな突入電流が流れてしまいますので、これを改良したものが、「コンドルファ始動法」というものになります。

↓<画像6>に始動補償器法の回路概要を載せておきます。

画像6

インバータ始動法

インバータ始動法は、電源の電圧・周波数を変化させながら始動することで始動電流を抑え、かつトルクも確保する万能な方式になります。

電験で「インバータ」というと、直流→交流への変換装置を言うことが多いと思います。しかし、インバータ始動の「インバータ」は交流→直流→交流、つまりコンバータ(交流→直流)インバータ(直流→交流)をセットにしてインバータと言っています。

↓<画像7>にインバータ始動法の回路概要を載せておきます。

画像7

つまり、入力される交流を異なる周波数・電圧の値に変換するものがここで言うインバータです。

まず始動時には電源の周波数を低くします。電源周波数を低くすることで、回転磁界の回転速度$$N_{s}=\frac{120f}{p}$$より、回転磁界の回転速度は小さくなります。滑りは$$s=\frac{N_{s}-N}{N_{s}}$$より、回転磁界の回転速度と、回転子の回転速度の差が小さいほうが滑りが小さくなり、一次電流の式より、始動電流は小さくなります。回転子の回転速度の上昇に従って周波数も上げていき(同期速度も上昇)、定格周波数まで上昇させます。

一方で、周波数を下げると、励磁回路のインピーダンスが低下し、励磁電流が大きくなり磁気飽和に至る恐れがあります。逆に周波数が上がると、励磁回路のインピーダンスが大きくなり、励磁電流の低下(=磁束の減少)、トルク不足を引き起こす恐れがあります。このため、電源電圧Vと周波数fによる、$\frac{V}{f}$を一定に保つことで励磁電流を一定に保ちます。これを「 $\frac{V}{f}$ 一定制御」と言ったりします。

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電動機・発電機についてもう一歩深く学びたいという方は、是非手に取ってみてください。

 

 

終わりに

今記事では様々な誘導電動機の始動法について解説しました。

昨今は消費電力の抑制のため、電動機そのものの省エネルギー化、さらには電動機の高効率運転(インバータ)が求められています。

どのような始動方式があるのかを知ることで、どこがどう改善されているのか比較できるようになるといいかもしれません。

お疲れさまでした(*_ _)

 

 

 

電気系の情報発信をしています。