本記事では、電気回路問題を解く上で非常に重要な「キルヒホッフの法則」について解説していきたいと思います。
キルヒホッフの法則とは?
キルヒホッフの第一法則
キルヒホッフの第一法則は、
というものになります。
電気は水で例えられることが多いので、今回も直感的に分かりやすいように水で考えてみましょう。ある分岐点に水が「10」流れ込んできたとして、二つの方向に分岐したとします。
すると、上側に「7」、下側に「3」流れたとします。流れ出す水の和は当然ですが「10」となります。この時、上下にどれくらいの量分岐するのかに関しては、分岐先の川幅等の条件にもよりますが、必ず上下合計で「10」になることが理解できるはずです。何も起こっていないのに、水がどこかに消え去ったり分岐した瞬間ワープすることはありません。
これが電気回路上でも同じことが言えるのです。また、どれだけ分岐の数が多くても必ず成り立ちます。
キルヒホッフの第二法則
キルヒホッフの第二法則は、
というものです。初学者の方はこの文章を読んだだけではピンと来ないかもしれませんが、なるべく分かりやすく説明しますので、頑張って理解するようにしてください。
まず、この法則が適用されるのは「閉回路」です。閉回路というのは回路が閉じている状態のことを指します。スイッチが開いている場合は閉回路ではありませんので注意してください。
赤線は閉じている回路なので閉回路、青線はスイッチにより開かれているので開回路となります。では、この回路図を基にして、キルヒホッフの第二法則が成り立つことを確認していきましょう。
まずは、スイッチが開かれている状態で、回路左側の閉回路(赤線)を見てみます。
スイッチが開かれているので、抵抗$R_{3}$に電流は流れません。したがって、閉回路(赤線)を流れる電流は、
$$\begin{align}I&=\frac{V}{R_{1}+R_{2}}\\&=\frac{120}{10+20}\\&=4[A]\end{align}$$
となります。したがって、閉回路中の抵抗による電圧降下は、
$$\begin{align}R_{1}I+R_{2}I&=10×4+20×4\\&=120[V]\end{align}$$
となり、閉回路中の電源電圧$V=120[V]$と等しくなります。
では次に、スイッチを閉じた状態を見てみましょう。
スイッチを閉じると抵抗$R_{3}$にも電流が流れるようになりますので、閉回路(赤線)を流れる電流も変わってきます。閉回路中の抵抗$R_{1}$,$R_{2}$による電圧降下を求めるために、それぞれの抵抗に流れる電流を計算して求めます。
まず抵抗$R_{1}$に流れる電流$I_{1}$は、
$$\begin{align}I_{1}&=\frac{V}{R_{1}+\frac{R_{2}×R_{3}}{R_{2}+R_{3}}}\\&=\frac{120}{10+\frac{20×30}{20+30}}\\&=\frac{120}{22}\\&=\frac{60}{11}[A]\end{align}$$
次に、抵抗$R_{2}$に流れる電流$I_{2}$を分流の法則を用いてもとめてみます。(並列回路の計算に関しての記事を貼っておきます)
皆さんこんにちは!管理人NORIです! 今回は電気を学び始めた方に向けて「直列抵抗・並列抵抗とその計算」について記事を書いていこうと思います。 前提となる知識は「オームの法則」のみ!です。「オームの法則ってなんだっけ?」という方[…]
$$\begin{align}I_{2}&=I_{1}×\frac{R_{3}}{R_{2}+R_{3}}\\&=\frac{60}{11}×\frac{30}{20+30}\\&=\frac{36}{11}[A]\end{align}$$
これより、閉回路(赤線)中の電圧降下を求めると、
$$\begin{align}R_{1}I_{1}+R_{2}I_{2}&=10×\frac{60}{11}+20×\frac{36}{11}\\&=\frac{1320}{11}\\&=120[V]\end{align}$$
ここでも、閉回路中の電源電圧(起電力)と電圧降下が等しくなりました。この法則は閉回路中に電源が何個ついていようが、逆向きに接続される電源があろうが必ず成り立ちます。
では次に、キルヒホッフの第一・第二法則を用いて問題を解いてみましょう。
実践問題を解いてみよう。
第一法則を使って問題を解いてみよう
問題1
電流$I_{4}$の大きさと向きを答えよ。ただし、図中の矢印の向きを正とする。
解答
キルヒホッフの第一法則は、
でした。まずは問題の図より、
$$流入=流出$$
の等式を作りましょう。すると、
$$I_{1}+I_{3}+I_{4}=I_{2}$$
となり、$I_{4}$を求める式に変形すると、
$$I_{4}=I_{2}-I_{1}-I_{3}$$
となります。ここに数値を代入すると、
$$\begin{align}I_{4}&=50-10-30\\&=10[A]\end{align}$$
となります。したがって答えは、図の矢印の方向に10[A]の大きさの電流が流れる。となります。
ではもう一問解いてみましょう。
問題2
電流$I_{4}$の大きさと向きを答えよ。ただし、図中の矢印の向きを正とする。
解答
問題1と同様に$$流入=流出$$の等式を作ってみるのですが、今回は全て流入の方向に電流が流れています。これはどういうことなのかというと、「$I_{4}$の向きが分からないので図のように勝手に決めた」という解釈をすることが出来ます。したがって、図の方向を正とし、答えが負となって出てきたときには、「実際には反対向きの矢印だった」ということになります。
では実際に求めてみましょう。図中の電流の矢印は、すべて流入の方向であるので、
$$I_{1}+I_{2}+I_{3}+I_{4}=0$$
となります。$I_{4}$を求める式に変形すると、
$$I_{4}=-I_{1}-I_{2}-I_{3}$$
となり、数値を代入すると、
$$\begin{align}I_{4}&=-60-40-15\\&=-115[A]\end{align}$$
となります。つまり、電流の大きさが115[A]であり、方向は図の矢印とは逆方向(流出)である。が答えになります。実際の電流の流出入の関係は次のようになります。
第二法則を使って問題を解いてみよう
問題1
抵抗$R_{2}$に流れる電流$I_{2}$の大きさを求めよ。
解答1:キルヒホッフの第二法則を用いて解いてみる
キルヒホッフの第二法則をもう一度見てみましょう。
まずは、電流$I_{2}$を含む形で第二法則を用いる閉回路を決めましょう。
次に電源電圧と電圧降下を用いて等式を立てます。
$$V=R_{1}I_{1}+R_{2}I_{2}$$
これを$I_{2}$を求める形に変形し数値を代入すると、
$$\begin{align}I_{2}&=\frac{V-R_{1}I_{1}}{R_{2}}\\&=\frac{100-5×10}{10}\\&=5[A]\end{align}$$
よって答えは5[A]となります。
ここで補足として、キルヒホッフの第二法則を用いないで解いてみましょう。
解答2:キルヒホッフの第二法則を用いず解いてみる
合成抵抗$R_{0}$は、
$$\begin{align}R_{0}&=\frac{V}{I_{1}}\\&=\frac{100}{10}\\&=10[Ω]\end{align}$$
となり、並列部の上側の抵抗を$R_{3}$とし、抵抗$R_{3}$の値を求めます。
$$R_{0}=R_{1}+\frac{R_{2}×R_{3}}{R_{2}+R_{3}}$$
$$\begin{align}R_{3}&=\frac{R_{2}(R_{1}-R_{0})}{R_{0}-R_{1}-R_{2}}\\&=\frac{10×(5-10)}{10-5-10}\\&=10[Ω]\end{align}$$
分流の式を用いて、
$$\begin{align}I_{2}&=I_{1}×\frac{R_{3}}{R_{2}+R_{3}}\\&=10×\frac{10}{10+10}\\&=5[A]\end{align}$$
と求められました。
解答1と解答2を比べてみると、解答1の方が式の量も少なく、なおかつ単純な計算で答えを導くことが出来ています。このように、法則を知り使いこなせるということは、時短効果のみでなく、計算ミスの防止にもなります。
発展問題:実際に電験三種で出題された問題
図のような直流回路において、$2R[Ω]$の抵抗に流れる電流$I[A]$の値として、正しいものは次のうちどれか。
(1)$\frac{2E}{7R}$ (2)$\frac{5E}{6R}$ (3)$\frac{E}{6R}$ (4)$\frac{3E}{4R}$ (5)$\frac{E}{2R}$
解説
まず下の画像のようにキルヒホッフの第二法則を適用する閉回路を一つ決め、上側の電流を$I_{1}$とし、向きも図のように決めてしまいます。(これはどちら向きに決めていただいても構いません。)
今回わざと$I_{1}$の向きを右向きにしましたが、閉回路(赤線)をたどってみると見てみると、$I_{1}$と$I$の向きが逆方向になっていることが分かります。その場合の解き方を今から解説します。
まず閉回路(赤色)に図のように赤矢印を設けます。これは電流の向きではなく、閉回路をたどる向きになります。
ではここでも、
起電力=電圧降下
の式を立てるのですが、閉回路をたどる向きと一致する電源・電流による電圧降下を正、閉回路をたどる向きと逆向きの電流による電源・電圧降下を負として式を立てます。
つまり、電源電圧Eは正。$I_{1}$による電圧降下も正。$I$による電圧降下を負として式を立てます。
$$E=3R×I_{1}-2R×I・・・①$$
$I$を求めたいのですが、$I_{1}$が邪魔をして求めることが出来ません。したがって、もう一つ閉回路を決めて式を立てる必要があります。
では同様に青色閉回路で式を立ててみましょう。電流$I_{2}$の向きは好きなように決めてください。
$$3E=2R×I-3R×I_{2}・・・②$$
今度は$I_{3}$が出てきたよ…??
僕たちには、もう一つ武器があったよね!
ここで、キルヒホッフの第一法則の登場です。右側の接続点にして電流に関する式を作ってみましょう。
流入=流出より、
$$I+I_{1}+I_{2}=0・・・③$$
が立式されます。③を$$I_{2}を求める式に変形すると、
$$I_{2}=-I-I_{1}・・・③’$$
③’を②に代入しましょう。
$$\begin{align}3E&=2R×I-3R×(-I-I_{1})\\&=5RI+3RI_{1}\end{align}・・・②’$$
では①と②’を用いて$I_{1}$を消去し答えを求めていきましょう。
よって、
$$I=\frac{2E}{7R}$$
となり、答えは(1)となります。
今回は電流$I_{2}$の向きをわざと閉回路のループをたどる方向と逆にしましたが、ループと同じ向きに決めてしまえばプラスマイナスのミスがしにくくなったりします。なのでご自身のやりやすいように工夫して決めていただいて結構です。
最後の問題は難しかったかもしれませんが、是非キルヒホッフの法則を使いこなせるようにして試験合格目指してください。
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